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福島家庭裁判所 昭和39年(家)3016号 審判

申立人 大田トク(仮名)

相手方 大田松男(仮名) 外一名

主文

相手方大田辰男は申立人を昭和三九年一一月一日から引取つて扶養することとし、その期間中相手方大田松男は申立人に対し、飯米として毎年粳精米四斗入三俵と調味料として必要なだけの味噌を供給し、ほかに生活費として毎月末日限り二、〇〇〇円宛を支払うこと。

理由

本件申立の要旨は、相手方松男、同辰男は申立人の長男、次男であり、相手方松男は家業(農業)を継いだので、申立人は、松男と同居してきたのであるが、同人からつらくあたられたので、一年ほど前に家を出て、現在酒類の販売を営む田村方に住込んで、台所仕事や子守をして月四、五〇〇円もらつている。しかし既に老齢に達し思うように働けなくなつたため、向後相手方辰男に引取つてもらい、松男からは、飯米として毎年粳精米三俵調味料として必要なだけの味噌を供給してもらい、そのほかに生活費とし毎月二、〇〇〇円宛交付を受け度いので本申立をしたというのである。

なお、本件について最初調停を行つた際、相手方松男は、申立人が相手方辰男の世話になることには異存がなく、その際は申立人に対し毎年粳精米三俵宛と調味料として必要なだけの味噌を供給し、ほかに生活費として毎年一万円宛を交付してもよいと述べている。

案ずるに本件記録中の戸籍抄、謄本、家庭裁判所調査官青木保の調査報告書及び申立人本人審問の結果によると、

(1)  申立人の長男である相手方松男は家業を継ぎ専ら農業を営むもので、田九反八畝位、畑四反七畝位を耕作しており、年に米は六〇俵位とその他のものを生産し、米四五俵位を供出しておるが、借財が農協からの借入四四万円、税金滞納一二万円位、その他の負債を併せて合計六〇万円弱あり、家族五人(妻は昭和三六年一月死亡し、一六歳をかしらに子供四人おる)の生活はゆとりのあるものでないこと、

(2)  申立人の次男である相手方辰男は、相手方松男のとなりの屋敷に住み、田四反六畝位、畑四反位を耕作し、年に米三三俵位を生産し、二五俵位を供出しており、更に農業を営むかたわら○○製作所に板金工として勤め、日給六〇〇円を得て、妻子三人と普通の生活を営んでおること、

(3)  申立人は、夫と死別し、昭和三七年頃まで相手方松男と同居していたものであるが、同人からつらくあたられるということで、家を出て、現在酒類の販売を営む田村方に住込み、台所仕事や子守をして月四、五〇〇円を得ておるけれども、既に老齢に達し思うように働けなくなつてきたため子供の世話を受け度いのであるが、相手方松男のもとには到底復帰できないので、相手方辰男の世話になり度いと切望していること、

を認めることができる。

以上のような事情であつてみれば余生いくばくもない申立人の希望にそうように配慮するのが至当であり、従つて相手方辰男において申立人を引取つて世話すべきであると思料する。その場合相手方松男においても申立人の生活費を負担すべきであつて、最低申立人の希望する程度の米、味噌と金額を給すべきである。なお、不足分については相手方辰男において負担するのが相当である。そして、その程度の負担は、両名の前記経済状態に照し支弁し得るものと思われる。そこで以上のような判断に基いて主文のように審判する次第である。

(家事審判官 伊藤正彦)

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